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コラム

坂井豊貴「マーケットデザイン」⑧⑨⑩マッチング理論

日本経済新聞社および坂井豊貴氏の許可を得て、2013年に日本経済新聞「やさしい経済学」欄に掲載された同氏によるマーケットデザインの記事を転載しています。

第8回 マッチング理論(2013/5/16)

マッチング理論は、社員の部署への配属や、学生の進学先の割り振りなど、「人」と「部門」の組み合わせを考察する強力なツールです。

ここでは単純な例として、就職活動をしている三名の学生(1、2、3)と、彼らのうち一名のみを採用したい二つの会社(A、B)がいる状況を考えます。

各学生はどの会社に行きたいか希望する順序を持っており、各会社はどの学生を欲しいか希望する順序を持っています。その順序は図にある通りですが、これは例えば学生1は会社A、Bの順で入社を希望することを意味します。

どのような方式で学生と会社を組み合わせればよいのでしょうか。まず「早い者勝ち方式」を考えてみます。

この方式のもとでは、学生1と3は第一希望の会社Aに出願し、会社Aはより望ましいほうである学生1に内定を出し、学生3を断ります。また学生2は会社Bに出願し、この会社は唯一の出願者であるその学生に内定を出します。

学生3は内定を得られないわけですが、彼は実は会社Bに出願していればよかった。そうすれば競合する学生2に勝って内定を得られたからです。そしてまた、会社Bにとっても実はそうしてくれたほうがよかった。会社Bは学生3を最も高く評価しているからです。

つまり早い者勝ち方式は、「両想い」な学生3と会社Bを組み合わせることに失敗しています。このような組み合わせを不安定といいます。

そしてまた、この方式のもとでは各学生は、他の学生の行動を予想しつつ、戦略的に自分の出願先を決めねばなりません。しかし、皆がそのように考えリスクを回避した結果、人気の会社に誰も来なかったというような事態も起こりえます。

早い者勝ちではうまくいかない。不安定な組み合わせが起こり、戦略的な問題も生じてしまう。そこで工夫が必要になります。

希望順 学生1 学生2 学生3 会社A 会社B
1位 A B A 1 3
2位 B A B 3 2
3位   ― 2 1

 

第9回 受入保留方式(2013/5/17)

前回に引き続き、図で表されるような、就職活動を行う三名の学生と、一名だけ募集する二つの会社を組み合わせる問題を考えます。

ここで避けたいのは、例えば学生2が会社Bの内定を受け、学生3が無内定となるような事態です。そのとき学生3は会社Bに行きたいし、会社Bも学生3をほしいので、「両想い」を組み合わせることに失敗しているからです。

そのようでない組み合わせを安定的といいます。これから安定的な組み合わせを常に導く、デビッド・ゲールとロイド・シャプリーによる受入保留方式について考察します。

この方式の特徴はすぐに「内定」を出さずに、「保留」をすることです。まず学生1と3は会社Aに出願し、会社Aは学生1を保留して学生3を断ります。そして学生2は会社Bに出願して、この会社はその学生を保留します。

次に学生3は次善の会社Bに出願します。そして会社Bは、学生3と保留中の学生2を比較し、より望ましい学生3に保留を移します。学生2は断られる。

そして学生2は次善の会社Aに出願します。会社Aは、学生2と保留中の学生1を比較し、より望ましい学生1の保留を維持し、学生2を断ります。これでプロセスは終了し、保留が内定になります(図の記号に下線がついたもの)。

受入保留方式により得られる組み合わせは必ず安定的になっています。そして更に、学生は正直に、行きたい順に出願することが、常に得策になっています。よって皆が人気の会社を避けた結果、そこに人が集まらない、というような事態も起きません。

保留や断りなどのプロセスは、学生側に厳しく見えるかもしれません。しかしそうではありません。安定的な組み合わせは一般には複数存在するのですが、受入保留方式はその中で、全ての学生にとって最も望ましい組み合わせを導くことが知られています。

希望順 学生1 学生2 学生3 会社A 会社B
1位 A B A 1 3
2位 B A B 3 2
3位   ― 2 1

 

第10回 人が制度を作る時代(2013/5/20)

マーケットデザインは制度移行を補助する学問分野です。周波数免許でいえば、裁量行政による割り当てから脱し、オークションによる効率性と透明性の高い売買を実現させることに貢献しました。

1994年のアメリカにおける周波数オークションで政府が得た収益は、初期だけで420億ドルにのぼります。当時は誰もこのことを予想できませんでした。

実際、行政管理予算局による事前の予想額は100億ドルでした。またその予想に対する事業者たちの反応も冷ややかで、そんなに高い金額が付くはずがない、といったものでした。

このことをどう理解すべきでしょう。まず政府の予想が大きく外れていたということは、やはり裁量行政はやめてよかったといえます。一方で事業者を見ると、民間だからといって政府より賢いとは限らないわけです。

誰が悪いわけでもありません。モノの経済価値は個々の誰にも分からないということです。それは市場で価格という形ではじめて浮かび上がる。

アメリカでの成功を皮切りに、今ではほぼ全ての先進諸国で周波数オークションが実施されています。中にはうまくいかなかったものもありますが、それゆえに経験と知識の集積が多くあります。

日本では周波数オークションは未導入です。それに関する電波法の改正案は、昨年の衆院解散で廃案になってしまいました。なお、2007年に総務省がウィルコムに審査で高得点を与え周波数免許を交付しましたが、同社はその後、倒産しています。

羽田空港の新規発着枠もオークションを行うことが検討されていたのですが、やはり衆院解散後に中止となりました。結局は国土交通省が裁量で割り当てています。

日本でも電力小売りの自由化が実現しそうですが、これからはどう電力市場をデザインするかが大きな課題になります。単に業者に競争させるというのではなく、人々が「自分は電力をどこから買うべきか」を考えねばならなくなることが重要です。

これは市民の自治の機会を意味してもいます。自治を通じて市民が成熟し、発電と政治に影響を与えるという、民主的な社会の一端をマーケットデザインは担います。

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