オークション・ラボ

コラム

坂井豊貴「マーケットデザイン」⑤⑥⑦オークション後半

日本経済新聞社および坂井豊貴氏の許可を得て、2013年に日本経済新聞「やさしい経済学」欄に掲載された、同氏によるマーケットデザインの記事を転載しています。

第5回 諸方式の比較(2013/5/13)

第二価格オークションは一番高い入札をした人が、二番目に高い入札額を支払う方式です。仮に参加者が2人いたとして、一方が10万円、もう片方が5万円の入札をしたら、勝者となる前者の支払い額は5万円です。

この方式のもとで各参加者は、最大限この額まで払ってよいという金額である評価値を、そのまま正直に入札するのが、他の参加者たちの入札額に関わらず最適です。その性質を耐戦略性というのでした。

さて、競り上げ式オークションは、最初は低い金額から競りが始まり、参加者たちが徐々に金額を上げていく方式です。この方式と第二価格オークションとは表面的にはかなり異なります。

しかし両者は実質的に近いのです。例えば2人の参加者がいるとして、一方の評価値が10万円、もう片方の評価値が5万円だとしましょう。

競り上げ式のもとでは、金額が徐々に上がっていきます。いつまで上がるかというと、参加者が最後の1人に残るまでです。いまの例だと、5万円の段階で、評価値が5万円の参加者が競りから降ります。そして評価値が10万円の参加者が勝ち残り、オークションは終了します。

つまり結果は、一番高い評価値を持つ者が、二番目に高い評価値である5万円を支払うというわけです。この結果は第二価格オークションと同じです。

これと同様の議論で、実は競り下げ式オークションと第一価格オークションが実質的に等しいことが知られています。

ではどの方式が優れているのか。第一価格と第二価格で比較してみましょう。まず耐戦略性のことを考えれば、当然、第二価格オークションのほうが優れています。

売り手側の懸念は、「第二価格」だけに「第一価格」より低い収益しか上げられないのではという点でしょう。しかし必ずしもそうではない。

売り手としては、どのような入札者が来るか不確実です。そこで両方式のもとで収益の予想額を確率的に計算すると、実はそれらの金額は同じなのです。この結果は収益同値定理といい、ウィリアム・ヴィックリーがいくつかの条件下で示したもので、彼はその貢献によりノーベル賞を与えられています。

第6回 複数財のオークション(2013/5/14)

前回までの話では、1つの財のみを扱うオークションについて考察してきました。しかし、より広い応用を考えれば、複数の財を扱うことが必要になります。このときオークション方式の設計問題は難度が上がります。

例えば、机と椅子を売るとして、個別に売るのか、別々に売るのか、それとも両方の可能性を許容するのか。机と椅子なら財の数は2個に過ぎませんが、それでもこの問題は自明でない。財の数が増えた場合には尚更です。

周波数の利用免許はその典型例で、地域や帯域により異なる様々な種類のものがあります。そして通信事業を行うためには免許が欠かせません。

そもそもなぜ免許の形式を取らねばならないのか。皆が勝手に使うと混線して使い物にならなくなるからです。なぜオークションでなければならないのか。これについてはアメリカの事例が教訓的です。

昔はアメリカでも裁量行政で免許の割り当てを行っていました。行政機関が事業者を審査して決めるわけです。しかし審査には時間がかかるし、効率的に配分することは期待できない。審査で分かることは少ないからです。

アメリカではその後、ランダムにくじで配分を決めようとしますが、もちろんそれで効率的な配分が達成できるはずがありません。そこでオークションを導入することになったわけです。

アメリカ連邦通信委員会はポール・ミルグロムらマーケットデザインの専門家に、周波数オークションのデザインを依頼します。彼らが最終的に辿りついたデザインは、同時競り上げ式と呼ばれるものでした。

それは一つひとつの免許を個々に競り上げ式オークションにかける方式です。特に重要なのは、開始時間は同じで、また全てのオークションが終わるまでどのオークションも終わらないようルールを設定したことです。

こうすると事業者はオークションの途中で、ある免許の値段が高くなってきたときに、よく似た他の免許に乗り換えることができるようになります。これにより、似た免許には似た価格が付く、いわば一物一価が実現することになります。「(神の)見えざる手」が可視化されたともいえるでしょう。

第7回 日本での活用へ(2013/5/15)

1994年にアメリカ連邦通信委員会が主催した周波数オークションの成功は、特に目覚ましいものでした。収益の総額は現在8兆ドルを超しています。

行政管理予算局による事前の予想額は100億ドルでした。そしてこれに対する事業者たちの反応は冷ややかで、そんなに高い金額が付くはずがない、といったものでした。これらの事実から何が学び取れるか。

まず政府ですが、オークションは成功したとはいえ、予想という点からは大きく外れています。これでは裁量行政でうまくいくわけがない。なお、日本でも2007年に総務省がウィルコムに審査で高得点を与え免許を交付しましたが、同社はその後、倒産しています。

次に事業者についてですが、やはりこちら側も予想は大きく外れている。つまり民間だからといって政府より賢いとは限りません。つまり、オークションに関わる個々の主体は、誰も価格の予想が付かなかった。

誰が悪いわけでもありません。誰にも分からないモノの経済的価値を、価格という形で浮かび上がらせる。それが市場の機能だからです。

アメリカでの成功を皮切りに、今ではほぼ全ての先進諸国で周波数オークションが実施されています。中にはバブルが発生したものや、収益が低調だったものもありますが、それゆえに経験と知識の集積が多くあります。

日本で周波数オークションは導入されていません。民主党は2009年衆院選のマニフェストでそれに触れていたのですが、これに関する電波法改正案は、昨年の衆院解散で廃案になってしまいました。

また、羽田空港の新規発着枠もオークションを行うことが検討されていたのですが、やはり衆院解散後に中止となりました。結局は国土交通省が裁量で割り当てています。

そして政権交代後の2013年1月、自民党の新藤義孝総務相は、周波数オークションを行わない方針を発表しました。

一方で、学問的な準備は整っています。特に、東京大学の松島斉教授はオークション・マーケットデザインフォーラムを発足させ、日本での周波数や発着枠オークションの優れた試案を公開しています。残るは政治と行政による活用だけです。

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